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持続可能なツーリズムへ―北欧エコホテル探訪記

本稿は2010年コンベンション札幌ネットワークの海外調査について北方圏センター(現公益社団法人北海道国際交流・協力総合センター)発行の『Hoppoken』に寄稿した原稿を加筆修正したものです--

■戦略としての環境配慮

コペンハーゲン国際空港へ降下する飛行機が、ゆっくりと機体を傾けたとき、海の上に風車が弧状に立ち並ぶのが見えた。
これが有名な洋上風力発電所。いかにも環境の国の入り口らしい。

2010年9月、ホテルや会議の環境配慮の調査事業で、北欧を訪ねた。私が理事をしているNPO法人コンベンション札幌ネットワークの委嘱を受けたもので、スウェーデン、デンマークの2カ国を周り、4つのホテル、COP15の会場となった国際会議施設ベラセンター、COP15の運営を行った企業、北欧のエコマークであるスワンマークの認証組織などを訪問、調査を行った。
コンベンション札幌ネットワークは、札幌国際プラザに事務局を置き、北海道のコンベンション事業者やホテル等が会員となって、北海道をコンベンション(現在はMICEという言い方を始めている)で元気にしようという高い志をもったメンバーの集まりである。私たちはかなり早い時期から、グリーンコンベンションを掲げ、環境への配慮が北海道の競争力を生むことを提起し、実践してきた。
しかし観光や環境を基本戦略に据える北海道にとって、どこまでホテルや国際会議の環境配慮が戦略的に位置づけられているのだろうか。今回の調査は、改めてそのことを考えさせられるものとなった。

■スウェーデン、森の中のエコホテル ソンガ・セ-ビ

コペンハーゲン空港からストックホルム行きに乗り換え、アーランダ空港に到着したのは、午後8時過ぎ。まだ太陽は沈まず、さすがに明るい。
ソンガ・セ-ビは、ストックホルムのアーランダ空港から約1時間、森と湖に囲まれて、静謐にたたずんでいるコテージ風ホテルである。会議場として知られ、広い敷地に平屋の客室や会議場、管理棟・食堂等が点在している。
経営難の施設だったソンガ・セ-ビが環境への投資を開始したのは1990年代初頭。99年にはホテルとして初めてスワンマーク認証を取得し、その名を一気に高めた。環境経営がホテルの経営を改善し、世界中から客が訪れるホテル・会議場になったことは有名である。残念ながら環境責任者とは日程が折り合わなかったが、その名にたがわぬホテルだった。
屋根は緑化され、陽が当たるように設計されている。暖房はヒートポンプと水力発電。ゴミは7種類の分別がされていた。客室の床が木材なのだが、ワックスが塗られていないのには驚いた。化学物質を使わないという徹底した姿勢である。
美しい自然のなかのホテルで、たとえ環境に関心がなくとも、滞在していてなんとも心地よい。北海道にも、このような魅力的な場所は数多くあることを思うと、環境配慮によって世界から人を呼ぶ可能性が見えてくる。

スウェーデンを代表するエコホテル・ソンガセービ

スウェーデンを代表するエコホテル・ソンガセービ

■北欧最大のチェーンホテルは最大のエコホテル スカンディック

クルド難民の運転するタクシーで、ストックホルム市内に移動し、中心部にあるスカンディックホテル・アングレを訪ねた。同ホテルは、北欧最大のホテルチェーン、スカンディックのフラッグシップホテルである。

北欧最大のホテルチェーン・スカンディックホテル

北欧最大のホテルチェーン・スカンディックホテル

「私たちはすべてのホテルでスワンマークの取得を目指しています」
質素だがデザイン性の高いインテリアのなかで、サステイナブルビジネスマネージャーの肩書きをもつインガー・マットソンさんは語る。
「スワンマーク」は、北欧で高い認知度をもつ環境ラベルで、北欧で売られる多くの製品にこのマークが付いている。日本でいうエコマークだが、商品に限らず、ホテルやレストランなどのサービスも対象としている。先ほどのソンガ・セービが取得第一号である。

スカンディックホテル玄関にはスワンマークのプレートが

スカンディックホテル玄関にはスワンマークのプレートが

スカンディックでは、欧州に150軒あるグループホテルのうち、現在116のホテルで取得(北欧以外はEUエコラベル)。その取得は簡単ではなく、電力などのエネルギー使用量や化学製品の使用の有無、食事の農薬の有無など65項目をクリアしなければならない。取得しているホテルは約400で、全ホテルの8%にすぎない。その信頼性からか、取得したホテルは、スワンマークのプレートや旗を高らかに掲げている。
スカンディック・アングレでも、ウェルカムホールに用意されていたコーヒーや果物は有機農産物認証のKRAVマークが付いたもの。会議室には膝掛け毛布が用意され、暑ければ窓を開けるという。会議で配られる筆記具は木製のエンピツであり、ホワイトボードのマーカーもスワンマークのものだった。

「私たちは、お客様がどのようなかたちで環境改善に携わることができるかを考え、提案しています」とインガーさん。
会議参加者に対しては環境を考えるアクティビティやレクリエーションの提供も行っているという。私も貰ったのだが、会議主催者に渡すプレゼントの中身は、なんとホテルでも使用している非化学薬品の洗剤。なかなか徹底している。
同ホテルでは、ホテルの活動に関するCO2排出量を独自の計算式で計測。ほぼリアルタイムに公開し、可視化している。数値は、毎日各ホテルの担当者から送られてくる。それをインガーさんの部署が集計し、各ホテル毎のグラフとしてインターネットで公開し、誰でも見ることができる。
手間はかかるが、このような取り組みによってスカンディックのホテルブランドが向上し、一時は大手チェーンから売却された経営難から蘇ったのである。

スカンディックホテルのホームページでは様々な環境数値を公開している

スカンディックホテルのホームページでは様々な環境数値を公開している

■デンマーク、COP15支えたエコホテル クラウンプラザコペンハーゲンタワー

デンマークに移動してからは、第15回気候変動枠組条約締約国会議、いわゆるCOP15に関する調査に走り回った。
2009年12月、コペンハーゲンのベラセンターを会場に開催されたCOP15は、約100カ国の首脳を含む190カ国1万人以上が出席。環境に配慮した会議としても歴史に残った。運営に関係した人々と会い話を聞いたが、NGOの参加者のあまりの多さに会場が混乱した失敗談を語りながらも、出会う人のすべてがその会議開催に胸を張り、自信に満ちていたのは印象的だった。
なかでもホテル・クラウンプラザコペンハーゲンタワーの美しい広報CSR(企業の社会的責任)担当者・フレデリッケ・トマゴーさんは印象的だった。フレデリッケさんは、元ジャーナリスト。かつてデンマークの有力紙のムハンマド風刺画事件で世界が揺れたときの当事者で、この問題を契機に新聞社を離れたという。元ジャーナリストらしく知性的に環境を語り、館内を案内してくれながら、忙しそうに次々と仕事の指示を飛ばしてゆく。
「COP15の際、このホテルには、アル・ゴアやヒラリー・クリントンが宿泊しました。環境配慮によって選ばれたのです」とフレデリッケさんは、胸を張る。
同ホテルは、2009年11月開業。まさにCOP15に合わせてのオープンだった。
客室数は336部屋。建物の外壁は真っ黒なデザインである。「この外壁はどうしてこんな色か分かりますか」と彼女はいたずらな笑いを浮かべた。答えは、5階から25階の壁面が太陽電池になっているためだ。デザインと機能を融合した壁が生み出す17万㌗の電力で館内の電気はまかなわれる。足りない時には、近くの風力発電から供給されるという。

外壁が太陽光パネルで覆われたクラウンプラザホテル

外壁が太陽光パネルで覆われたクラウンプラザホテル

客室は高級感あふれる仕様だが、同時に環境配慮の見本市のようだ。
リネン類はすべて自然染色で、オーガニックコットンを利用している。北欧デザインの金属の家具は、リサイクル材を利用したもの。電灯はすべてLEDが使われている。また室内に紙はほとんどなく、情報はすべてテレビのモニターから取得可能だという。
浴室のアメニティ類、歯ブラシ、カミソリはトウモロコシとジャガイモ由来の生分解性プラスチック。水道の蛇口は空気を混合することで水量を最大70%減らすメカニズムのものが使用されている。まさに隅から隅まで、環境配慮である。

クラウンプラザホテルのアメニティ類容器はジャガイモ由来の生分解性プラスチック

クラウンプラザホテルのアメニティ類容器はジャガイモ由来の生分解性プラスチック

バックヤードも案内してもらった。
地下に暖房用ボイラーは存在しない。油の匂いが全くしないのである。冷暖房は、地下100㍍の地下水を使ったヒートポンプによる熱交換システムが使われている。厨房は、ガスではなく、IHヒーターですべての調理が行われている。つまり化石燃料は、車両など一部を除いて全く使われていない。
厨房の片隅に四角の箱のような機械があった。これはマイクロバットシステムという生ゴミ粉砕器だという。生ゴミは、ここで粉砕され、郊外のバイオガス施設に運ばれ、エネルギーとなるわけだ。
「私たちはとてもラッキーでした。すべてのサステイナブル・プロファイル(持続可能性のための経営方針)への投資を、ホテルを建てる際にできたからです。既存のホテルを改修するには、さらに多くの投資を必要としたでしょうね」とフレデリッケさん。
彼女たちにとってCOP15は、ただ国際会議を行った、というだけではない、誇りやアイデンティティなど、様々な財産が残ったのだろう。それはとてもうらやましい。同ホテルでは、環境経営に取り組む企業による会議利用が、現在も絶え間なく続いている。

■北海道が追いつくために

外側から見ていると環境先進国の北欧への憧れが増幅するようだ。しかし北欧のエコホテルを実際に訪ね、分かったのは、その先進性がこの十数年間に急速に取り組まれてきたことである。その背景には90年代からスウェーデンの財団法人ナチュラルステップが進めてきた意識改革など、教育や運動も存在した。とはいえ如何ともとしがたい伝統や文化の差異があるわけではない。事実北欧の街を歩くと、煙草の吸い殻やゴミが散乱しているのが目に付く。北欧の環境の先進性は、政治や社会システムが戦略的に取り組んできた結果であって、決して北欧の人々が我々よりも豊かな環境意識を持っているというわけではないのだ。
北欧でも、国際会議等の環境配慮はまだ始まったばかりだと、関係者の誰もが言っていた。北海道が観光・コンベンションで競争力をもつためには、いち早く、戦略的に、会議や宿泊の環境配慮に「制度的転換」をもたらすことではないだろうか。私たちにはスパイクタイヤ禁止やタバコ・空き缶ポイ捨て禁止など、環境を劇的に改善した経験がある。取り戻せない遅れがあるわけではない。(森影 依)

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2013年02月28日