ツーリズム論

観光という文化、文化の観光をめぐって

2000年代は、日本のツーリズムにとって大きなエポックとなった。
観光を国家的課題として明確化した「観光立国宣言」が出されたのが2003年。06年には観光を21世紀の重要施策として位置づけた「観光立国推進基本法」が成立、08年には観光庁が誕生した。また様々な大学において観光学部・学科が設置され、観光を総合的・学問的にとらえ返す「観光学」がようやく市民権を得るようになった。

しかし、その明るい観光の21世紀は、09年のリーマンショック、11年の3.11東日本大震災と原発事故、12年の尖閣諸島をめぐる日中対立の激化など、重大な事件の頻発によって大きな試練に直面している。
たとえ、そのような事件がなかったとしても、少子高齢化、人口減少という社会構造の変化は、国内旅行市場の縮退を招いているし、嗜好の多様化や、格差・雇用・将来への不安といった社会要因は旅行実施率を低下させ、「一年に一度も旅行にいかない、いわゆるゼロ回層は、現在、既に国民の半分を超えている(平成24年版観光白書)状況を生んでいる。

つまり私たちは構造的問題と直面している上に、多様な「危機」に翻弄されているわけだ。
しかし、それでも私は、人口減少に直面する社会、すなわち低成長で成熟した社会において、ツーリズムが地域再生の鍵となると考えている。
ツーリズムは、人の移動によって生まれる経済である。
その「移動の経済」は、たった一人から数百万人までの振幅で、そこに価値を生み出す。価値とは富でもあるし、人の交流や知識の交換という財でもある。小さなまちには小さいなりに、大きなまちには大きいなりの規模の経済が生まれるのだ。
人の移動によって富が生まれるのであれば、人を移動させればよい。
その単純明快さは、私たちに勇気を与える。

今求められているのは、従来の「観光」の概念を根本からとらえ直し、領域を越境し、組み換えることだ。その動きはとっくに始まっているし、多くの人々が新しいツーリズムの振興に挑戦している。私たちもこれまで、地域の同志とともにMICEの振興や、ワインツーリズム、漫画によるコンテンツツーリズムの実証実験などに参加してきた。私自身も、地域資源をコンテンツとして可視化し、人の交流を促進し、地域・産業を振興し、地域の活力を生み出すことを20年以上にわたって生業としてきたが、それはツーリズムと不可分のものだった。

そこで本稿では、21世紀の「遊動と創造の時代」(石森秀三)の観光の再定義に向けて、ツーリズムを二つの大きな文脈で思考しながら、コラム形式で表現していきたい。
ひとつは、人間の移動と文化という文脈である。人類の脱アフリカから始まり、民族移動、交易、巡礼、ツーリズムにいたる人間の文化にとっての観光、いわば観光を文化として定置し、思考し、政策化すること。
そしてもうひとつは、文化と経済の文脈である。情報化、グローバル化、サービス化という産業・社会構造の変化のなかで、創造的都市、持続可能的発展、地域資源とコンテンツ創造といった新たな視点によって、観光を文化(culture)と経済(economics)の新結合として組み換えること、である。
そしてその先に、学び・教育・情報技術・科学・文化創造と、経済活動としての観光の新結合が広がることを願っている。

(森影 依)